イキリオタクの光と陰(第1部) #3

 イキリオタクーーー

 近年、サブカルチャーを取り巻く環境は劇的に変化し、様々な新語がけたたましく産声を上げている。オタクと呼ばれる従来の概念に"イキリ"
という要素が加わった「イキリオタク」もその一つである。

 なぜ彼らはイキるのか。その心の中に潜む闇とはー。

 これを明らかにすべく、春日会広報部は北関東の奥地へと歩を進めた。

 「現実が、現実が辛いから…すがるんです」。まだ少年のようなあどけなさを残した公務員O氏(23)は重い口を静かに開く。大学入学まで、振り返ってみれば悶々とした学生時代であった。勉強に次ぐ勉強、思春期特有の人間関係、漠然とした将来への不安…。そんな不安定な時期のある夜、液晶の奥で輝く彼女らに目を奪われた。そしてその姿に、夢を見る自分を重ねた。そう、それこそO氏が"イキる"元凶、桃色に光り続ける女性アイドルであった。

 「あの夜は大声で泣きました。嬉しくて、悲しくて…。色んな感情を解放して、堰を切ったように、そしてそれは、情熱的に…」。気がつけば裸で踊っていた。自分でも何が何だか分からなかった。止まらない涙に、自らの頬を何度も何度も殴った。そして翌日の朝、生まれ変わった姿に家族が、級友が、何より自分が驚きを隠せなかった。O氏は恥ずかしげに微笑む。「その頃からですね、有名芸人に似てるって言われ始めたのは」。

 2012年4月、今をときめく九州男児の某人気芸人の威を借り、O氏は関東の国立大学に鳴り物入りで入学した。初めての1人暮らし、初めてのサークル活動、無限にさえ思えた自由な時間の中でまず初めに取り掛かったこと、それはーーー。

 「アイドルを、守らなきゃ。僕が、守らなきゃ」。根拠のない使命感に駆られたO氏の、幾年もの歳月を掛けた悲哀の日々が始まった。

 第1部完

※当連載は不定期となります。また、取材対象者のプライバシーを守るため、O氏、その他の人物等に関する一切の質問は受け付けておりません。